あたしのペースが上がらない。
裏地と低いヒールを紐で素足に括っただけ、みたいなサンダルが想像以上に歩きにくかったせいだ。
そういえば、割とタイトなスカートのせいで、普段よりちょっと歩幅が狭いせい、のような気もする。
家から出てきた時のままのあたしなら、北川君と並んで歩くくらい、きっと苦もなくできてしまうのに。
おかげであたしはさっきからずっと北川君の背中ばかりを見ている。
着つけないブレザーのジャケットなんか着ているせいか、ジャケットの方に着られてしまっているような‥‥‥七五三のお子様をそのまま大きくしたような、どこかしっくりしない背中。
でも、やっぱりそのジャケットのせいなのか、今まで思っていたよりも肩幅が少し広く見える背中。
妙にぎこちなくあたしをどこかへ引っ張っていくその背中は、よく見ると、突然早足になったり、突然ゆっくりになったりを繰り返している。
何となくだけど気持ちはわかる。
多分、遅くなるのは、あたしのことを思い出して不安になるから。
速くなるのは、あたしがちゃんとついて歩いていることに安心するから。
そしてきっと、そんな風に不安になったり安心したりを繰り返さないといけないのは、自分が美坂をリードしないと、みたいな使命感でいっぱいいっぱいの北川君に、あたしと喋ったり、あたしを気遣ったりする余裕がまだないから。
この状況を打開する方法くらい幾つでも簡単に思いつく。
北川君が少しペースを落として、横に並んで歩くようにするのが一般的だと思う。
あたしが北川君の前を歩くのもいい。
北川君とあたしが手を繋ぐ、というのも簡単で効果的だ。
そして大切なのは、何でもいいから話すことだ。別に機知に富んだ高尚な会話とかでなくていい。例えば、学校帰りのあたしたちが普通に話しているようなことで構わない。
‥‥‥学校帰りのあたしたちは、四人や五人が一緒に歩いても、誰かを置き去りにしたりはしない。
その時の北川君になら、もっと上手くやれているのに。
確かにどこかしっくりしないけれど。
でも思っていたよりも肩幅が広くて。
なんて必死で、なんて不器用で‥‥‥なんて、可愛い背中。
そんな背中を見つめる楽しみを憶えたから、追いつかなくちゃとか考えることをあたしは止めた。
打開する方法が幾つあったとしても、それを言ったりやってみせたりはしないことに決めた。
だってあたしたちは、まだ始まったばかりだ。
もしかしたらまだ始まってもいないのかも知れない。
だから、今すぐに何もかもが上手くいかないことになんて、焦っても仕方がない。
あたしもあなたもこんな格好にこんな靴で、それでも自然にふたり並んで歩ける日が、そのうち来たらいいと思う。
それまではこのままでいい。
こんなに近くを歩いているのに歩幅も揃わないようなぎこちない距離のことを、実はあたしは、自分で思うよりも気に入っているような気がしてきたから。
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