「しらこざけ?」
きょとんとした顔で、真奈美は洒落た陶器のタンブラーを覗き込む。
「甘酒‥‥‥とは違う感じだね?」
「違うわよ。っていうかもう、香りが違うじゃない全然」
呆れたように手を振りながら、菜織はもう手元のタンブラーに口をつけている。
真奈美と菜織、それに正樹。
三人が囲んだテーブルの真ん中で、ふつふつと煮立ちつつある土鍋の中身はふぐちり。
そして、用聞きをするでもなく、高校生相手にいきなり振る舞われる白子酒。
冴子の親父の飲み仲間がやっている店、という冴子の触れ込みはどうやら本当のようである。
そして‥‥‥冴子がここの店の主人に何と思われているのかも、何となく、わかってしまったような気がした。
「ねえ、白子って何でできてるの?」
ネタでも何でもなく、素でわかっていない感じの真奈美が、傍らの菜織に尋ねる。
「え? 何で、って‥‥‥えっと」
珍しくちょっと頬を赤らめた菜織がちらっと正樹の顔を見やる。
「そこでこっち見るなよ」
正樹が困ったように笑う。
「え? 何か困るようなものなの?」
「いや別に困らないけど。んー、何て言ったらいいか」
珍しく菜織が言いづらそうにしている。
「えー? 教えてよお」
「正樹、パス」
「待て菜織、勝手にパスするなコラ」
真奈美の見ている前で、菜織と正樹は不毛な押しつけ合いを始めた。
勝負の方法でまた一悶着あった揚げ句、ジャンケンに負けたのは正樹だった。
こほん、とひとつ咳払いをした正樹を真奈美が見つめる。
「ええと、白子っていうのはフグの精巣のことで」
「せいそう?」
「‥‥‥あとはお家に帰って辞書引いてね、じゃダメかな?」
「‥‥‥ダメだよ。わかんないんだもん」
許してくれないようである。頬を掻く正樹を、菜織もにやにやと笑いながら見つめている。
「つまりだ。精子ってのはその‥‥‥で、だから人間で言うと‥‥‥の‥‥‥」
ごにょごにょと小さな声で正樹が呟く。
「ごめん正樹くん、聞こえないよ?」
こく、とその白子酒を嚥下しながら、真奈美が怪訝そうに首を傾げる。
「ああもう、だからっ!」
自棄を起こしたような正樹の説明に真奈美は沸騰する。
「え、だってあたし、これ少し飲んじゃったよ?」
慌ててまくしたてる。
「別におかしなものじゃないわよ。トラフグなんでしょ多分? だったら白子には毒入ってないし」
「そうじゃなくて‥‥‥って、菜織ちゃんも飲んでたよね?」
「飲んだけど?」
「あの‥‥‥赤ちゃんができちゃったりとか、しない?」
潜めた声と深刻そうな表情が、真奈美の真剣さを物語っていた。
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