『さて! 今日のお昼の放送もそろそろ時間となりましたっ。ううっ寂しいねぇ、うるうる』
と言ってはいるのだが、ううっ寂しいねぇ、が全然寂しそうに聞こえないあたりが、ある意味では美亜子の限界なのかも知れない。‥‥‥もっとも、校舎のそこかしこで一斉に「えーっ?」と野太い不満の声を上げた男子連中などは、そんな限界が云々なんて毛ほども気に留めていないに違いないが。
「いつも凄いね、ミャーコちゃんのファンの人たち」
感心したように乃絵美が呟く。
「アイツにファンなんているのか? 昼休みが終わって欲しくないだけなんじゃねーか?」
冴子の反応はあくまでも冷静だった。
『というワケで本日お昼のラストナンバーは、なんとなんと、「真・ズンドコ節」なのだよ諸君っ☆』
そして美亜子はどうやら本当に、最後の最後までズンドコ節で通す気でいるらしい。
「真って‥‥‥ねえサエ、そんなのもあるの?」
「あ? や、知らないけど。っていうか菜織、あたいをズンドコ節ハカセか何かと勘違いしてねーか?」
「あれ違ったっけ?」
戯れに殴りかかる冴子のいい加減に握られた手から、
「きゃあああ助けてえええ」
菜織は真奈美の後ろに隠れることによって逃れようとした。
「もう、菜織ちゃんってば」
真奈美はとっくに泣き止んでいた。
今はもう、そんな不安に泣く必要なんてない筈なのに、それでも、そういうことはたまにある。‥‥‥ぽん、と真奈美の肩に手を置いた菜織が伝えたいと思っていたことは、口で言わなくても真奈美にはちゃんと伝わっていて、だから真奈美は振り返りもせず、置かれた菜織の手の上に自分の手をそっと添えるだけだった。
『こほんこほん。あーあーあえいうえおあお。‥‥‥さあ、ミュージック・スタートっ!』
放送室の外のことなど知る由もない突撃レポーター兼お昼休みのアイドルは、おもむろにそう宣言しながら、ぱちん、と指を鳴らして。
そして。
「‥‥‥自作自演かよっ!」
「あははははっ! 何よこの歌詞っ!」
バカ負けした冴子たちの大笑いする声すら掻き消すような大音響で、フォークギターをバックに自ら歌い始めた美亜子の能天気な歌声が、再び、校舎内を席巻するのだった。
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