「あのさ。いきなり、変なコト聞くけど」
「ん?」
「水の色って、水色だと思う?」
「え? 水‥‥‥の、色?」
「ほら、絵の具の水色って、本当は薄い青だと思わない? だって、水色が青いのは水が青いからじゃないでしょ?」
「ああ、そういうことか。いやまあ、それはそうかも知れないけど」
「さっきちょっと思い出したんだけど、あたしね、昔‥‥‥小学校の時だけど、図工の先生に自然の絵を描きましょうって言われて、川とかその周りとか、そういうの絵に描いたことがあったんだ」
「その時は、川の色はどうしたの?」
「下が割と砂利っぽいところだったから、ざーって石だけいっぱい描いたの。だから灰色っぽくなった」
「うん。水色で水を塗らなかったんだったら、多分そうなるよね」
「そしたらね、先生が言ったのよ。『水は水色で描かなきゃ』って」
「それは‥‥‥それだったら、そういう風になってるんだったら、灰色だっていいと思うけどなあ?」
「でしょ? でもそういうの、わかってくれない先生って本当にわかってくれないじゃない? 聞いてくれてないのが悔しくてさ、その時は頭にきちゃって」
「もしかして、何かやったの?」
「その絵を描いた画用紙を水道のとこに持ってってね、思いっきり水浸しにして先生の机にばんって置いた。本物の水掛けたのに全然青くなんかならない、あんな絵の具なんて全然水の色じゃない、って言い張って。あたし成績はいい方じゃないけどさ、『がんばりましょう』がついたのはあれが初めてだったな」
「過激な小学生だなあ」
「だってさ、空の色とか水の色とか、あれ、嘘だと思わない? 天気が悪いと青くないし、晴れてたからって一日同じじゃないでしょ? なんで絵の具は空色とか水色とか書いてあるのかなあ、って昔からずっと不思議だったんだ」
「うーん‥‥‥まあ時によっては違うけど、昼間で晴れてる時の空とか海の色って大体そんなだから、じゃないかな? こう、何も言わない時は晴れてる時の昼間が基準になってることってあるでしょ、とかそういう感じで」
「それ、本当にそう思う?」
「ごめん。実はあんまり自信ない」
「あはは。いいの、困らせてごめん。‥‥‥わかってるんだけどね。そんなの、わかってるんだけど‥‥‥でもなんか、納得したくないこと、ってあるじゃない?」
「でもそれだったら、無理矢理納得した振りするよりも、納得できないって言っちゃった方がいいって俺も思うな」
「だからいろいろやっちゃうんだけどね」
「競泳の大会にビキニで出たり? ‥‥‥って、そうだ丘野さん、小学校の先生になったら?」
「え?」
「そういうの真面目に聞いてくれる先生って、多分、そんなにいないんだよ。でも丘野さんだったら多分、その図工の先生みたいにはならないでしょ?」
「それはそうだけど、でもその前に問題がいっぱいあるし。成績とか」
「うーん。難しいなあ、いろいろ」
「いや、でも‥‥‥そうだなあ。あのね、あたし、何々に向いてるって誰かに言われたことがあんまりなかったんだ」
「それはそうかも知れない」
「何か言った?」
「なんでもありません」
「もう‥‥‥でも、だからちょっと、嬉しかったかな。あ、あたしこっちだから。それじゃまた明日!」
「ああ、また明日っ!」
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