「名雪、本当に足速かったんだな」
「へへ。リレーも一等賞だったよ」
そりゃ学校の運動会のリレーくらいで素人相手に陸上部の部長さんが本気になって走ってるんだから一等賞くらい珍しい結果でもない気はしたが、まあ、それはそれとして。
「優勝だよ祐一。よかったよ」
ともかくも、俺や名雪の属するチームは、今年の運動会で見事な優勝を遂げたのだった。
「だから祐一、ご褒美に」
「イチゴパフェか?」
「ううん」
少しだけ前を歩いていた名雪が、振り返って、笑う。
「おんぶ」
「‥‥‥はい?」
「お家まででいいから。ね?」
毎度のことながら、名雪の思いつくことはよくわからなかった。
「えへへ。祐一の背中ー」
「こらそんなにくっつくな名雪」
「なんで?」
「なんでとか言うな」
そりゃその、もちろん、嬉しくないわけじゃないんだが。
でも一応ここは天下の往来でもあることだし。
「でも意外とおっきいね、背中」
‥‥‥聞いてなかった。いやだから胸が。胸が。
あ。
「意外とおっきいのな、胸」
「え? あ、わっ」
凄い勢いでくっついていた上体が少し離れる。この手があった。‥‥‥寂しくないわけじゃないんだが。
「もしかして、祐一、わかっちゃった?」
「ん? 何が? サイズか?」
「馬鹿。‥‥‥あの、胸にね、貼ってることとか」
「何を?」
「スポーツブラは擦れちゃって、ちょっと、痛い‥‥‥から」
「ブラと擦れる、って何」
何が、と聞こうとして、止めた。
誰がどう考えたってブラの下には胸しかない。この体勢で背中に当たる筈のところで、ブラに擦れるとこ、といえば。
「わかるわけないだろそんなの。つーか、貼るようなもんがあるのか?」
「女の子にそんなこと聞いちゃダメだよ」
「女の子に聞かなかったら誰に聞くんだよ?」
「うー‥‥‥あのね、ニプレスって言って‥‥‥」
急に名雪は声をひそめる。
「祐一、本当に知らない? 知ってるのに言わせようとかしてない?」
「だから知らないって。いいよ言わなくても」
「ありがと」
もう一度、名雪が抱きついてくる。
ちなみに。
「言わなくてもいいから、後で見せ」
「祐一の馬鹿っ」
「て‥‥‥っ‥‥‥」
申し出てみたらひっぱたかれた。オンナゴコロは難しい。
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