『全軍突撃。ガンパレード』
ガンパレード。‥‥‥小さな声でもう一度繰り返した。
きい、と椅子が鳴いた。
『最後の一人まで』
背凭れに寄り掛かると、赤い西陽が目に刺さる。火の国の西陽。
『ことごとく』
もう一度、きい、と音をたてて、立ち上がった善行はブラインドを閉じる。
『敵と戦って』
マイクに向かって喋った自分の声。
『死ね』
他人の声のようにスピーカーから聞こえた声が、今でもまだ、耳に残っていた。
死ね。
そういう命令を下したのは私だが。
はいそうですかとばかり、命令通りに死んでもらわなくても構わなかったのだが。
傍らの事務机の上に置かれた書類にちらりと目をやる。
戦車兵・壬生谷未央、戦死。
関東にいた頃は、こうしたできごとのひとつひとつは、数、としてしか報告されてこなかった。
実感を欠いた頭の中で人ならぬものと戦い、傷つき死んでいくものは、それが実際には何であったとしても、彼らにとってはチェスの駒や玩具の兵隊と何ら変わるところはない。
実際には、そんなことはなかった。戦う相手は人ならぬものだが、それと戦っているのはチェスの駒でも玩具の兵隊でもなく、自分と同じ、血の通った人間だった。
一万人規模の指揮能力を持つ筈の自分が、初陣とはいえ、たかだか二十二人くらいを全員生かして帰すことができなかった。
腹の奥底に黒くわだかまる感覚は何だろうか。
屈辱感だろうか。
敗北感だろうか。
「やれやれ。最前線は最前線で気苦労が多い」
ひとりごちてみた。
誰もいない司令室の中に小さく声が響いて消えた。
一万人と二十二人。
「‥‥‥二十一人ですか、もう」
一万人と二十一人では、指揮する自分の何が違うかといえば‥‥‥指揮する自分も誰かにとっての玩具の兵隊であるかどうか、それくらいのことなのだ。きっと。
だがそれでも、恐らくは玩具の兵隊のままで構わないのだろう。
子供は玩具を大切にするではないか。少なくとも、飽きて要らなくなるまでは。
だからせいぜい。
「飽きられない玩具になりましょう。そう、熊本から幻獣を追い落とすくらいの、愉快な玩具に」
あの世とかいうものがもしもあるのなら、あの小隊に自分はいたのだと、壬生谷さんが自慢話の種に使えるような玩具の兵隊に。
それくらいしてやれなくてどうするのだ。
静かに席を立って、さっき閉じたブラインドを開ける。
綺麗な満月の夜だった。
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