部屋に差し込む日差しまで気怠いような感じがする、日曜の遅い朝。
「んっ」
何となくぼんやりと開いただけの目蓋には、カーテン越しのそんな光でも眩しくて、のろのろと上げた右腕を正樹はぱたんと額に落とす。
「あ。起きた? おはよ、正樹くん」
真奈美の声が聞こえた。
物憂げにそちらへ首を傾けると、ちょうど真奈美が部屋に戻ったところだったらしい。両手にひとつずつ持ったコーヒーカップからゆったりと湯気が上がっている。
「コーヒー淹れたよ」
「ああ、サンキュ」
シーツに包まっただけの真奈美からカップの片方を受け取った。
ふと見ると、ベッドに半身を起こした正樹自身、腰から下を毛布に突っ込んだだけの状態だった。
「‥‥‥あの」
「‥‥‥ええと」
明るいところでまじまじと見つめ合うのは流石に恥ずかしくて、照れ隠しのように、ふたりは揃ってコーヒーカップに口をつける。
「ぶっ!」
苦いような、渋いような、薬くさいような‥‥‥とにかくコーヒーとは違う何かの味がして。
「やっ、何これっ?」
ふたりは揃って、コーヒーだった筈の暖かい何かを吹き出した。
「真奈美ちゃん、どうしたのコレ?」
「え? あの、普通にコーヒーを淹れてきただけ、の筈なんだけど‥‥‥ほ、本当だよ?」
必死で釈明しようとする真奈美に苦笑いを見せて。
ふと首を傾げた正樹は、もうひと口、カップの中身を啜ってみた。
「あ、正樹くん、無理して飲まなくても」
「いや‥‥‥あのさ、前にオヤジに飲まされたタンポポのコーヒーに味が似てるな、ってちょっと思ったんだ」
「タンポポ? の、コーヒー? ‥‥‥そんなのがあるの?」
「どっちかっていうとハーブティとかそういうのの筈だけど。この間あちこち配ったらしいようなことは言ってたし」
もうひと口。
飲みやすい味ではないが、コーヒーだと思わなければ‥‥‥それこそハーブティの類だと思えば飲めないことはない。
「乃絵美あたりから受け取って、その辺に置いといて間違えたんじゃないの? ほら、真奈美ちゃん今、眼鏡かけてないし」
「‥‥‥え? ああっ!」
今頃気づいたように真奈美の空いている手が目のあたりをまさぐるが、ベッドの側のナイトテーブルに眼鏡はまだ置いてあるのだから、顔を撫でても引っ掛かる筈がないのだった。
それからふたりは、汚してしまったシーツと毛布を洗濯して、今度はちゃんとしたコーヒーを正樹が淹れた。
いつの間にか、目覚めた頃の気怠げで大人っぽい雰囲気は湯気のように霧散してしまっていたが、それはそれで、ふたりらしいのかも知れなかった。
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