『ふん‥‥‥真っ先に突っ込んで斬る、か』
厚志のすぐ後ろで舞が呟く。見つめるディスプレイの向こう、壬生谷が駆る一号機の背中は既に遠い。
「そういえば、前にそんなこと言ってたよね」
『それしかない、とも言うておったが』
感心しているのか呆れているのか、口調からではよくわからなかったが、
『まあ、あれだけ徹底すれば、ひとつ覚えもまた芸と言うべきであろうな。結構なことだ』
言っていることの中身からすると、どうやら、感心の方らしい。‥‥‥へえ、と厚志が呟く。
「珍しいね。壬生谷さんのこと、芝村さんがそんな風に言うの」
『何がそんな風か』
舞はウォードレスの固い爪先で厚志のヘルメットを小突く。
『大体な、我らは難儀しておるのだぞ? 毎度毎度懲りもせず、単独で突っ込んでは壊されて戻って来おる。せめて滝川なり我らなり、どちらか片方とだけでも歩調を合わせることを憶えれば、あのくらいの戦果、ああも危険に身を晒さずとも挙げられようものを』
『聞こえていますよ芝村さん。陰口は陰に隠れて仰ってくださいな』
そこに本人が口を挟み、
『最前線から無駄話に割り込むとは、大した余裕だな、壬生谷』
ふてぶてしく舞が応じる。
『ご心配には及びません。これくらい、悉く屠ってご覧に入れます』
状況はまさに今舞が指摘した通りで、実際、ひとり隊から遠く離れた一号機の周囲には物凄い数の幻獣が群がり寄っている‥‥‥だが、それでも壬生谷は言ってのけるし、
『ならば、その大言に相応しい結果を示すことだ。芝村は忘れんぞ』
舞もまた、そんな壬生谷を焚きつけることを止めはしない。
『言われなくてもっ!』
そうして吐き捨てる声の裏にも、そこかしこに幻獣の装甲を叩き斬る音が重なっている。この激戦の最中、無駄話につきあっていられるのも壬生谷の実力があってこそだ。
『さて速水、我らは我らの仕事をしよう。あ奴にあれしか芸がないなら、それは前提として我らの戦術を考えれば済む話だ』
「そうだね」
珍しく両手にバズーカなど構えた三号機が、遠く離れた壬生谷に群がる幻獣に狙いをつける。
『外すなよ。二発で二匹、なるべく大物を狙え』
「うん。撃ち終えたらライフルに持ち替えるよ」
『それでよい。せいぜい獲物を横取りして、後で文句のひとつも言わせてやろうではないか』
剣の届く範囲は狭い。数にものを言わせて押し包まれるようでは対応しきれぬ。ならば、その外側にいる敵の層を薄くしてやれば、それだけ壬生谷も楽ができるであろう。
‥‥‥速水とふたりで作戦を考えていた時には普通に喋っていたそんなことを、だが、壬生谷に聞こえるところでは絶対に言わない舞だった。
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