朝が来て。
「どうして祐一は調子悪くなっちゃったのかな」
「どうして名雪は調子悪くならないんだ」
別々の理由で、祐一と名雪は頭を抱えていた。
「タバスコだけとか、やっぱりやめた方がよかったんじゃないかなあ?」
「イチゴと生クリームの方がよっぽどエキセントリックだと思うが」
確かに、祐一はタバスコのパスタも食べたし、イチゴと生クリームのパスタもちょっとだが食べてみた。
名雪はタバスコの方は口にしようとしなかったから‥‥‥祐一の腹具合がおかしいことの理由が何かの食材に拠るのなら、タバスコが悪い、としか考えられないシチュエーションではあった。
「でも、おいしかったよ? イチゴと生クリーム」
嬉しそうに笑う。また作ろう、とでも言い出しかねない。
「却下」
祐一の頬が少し引き攣っていた。
「えー」
「何がえーだ‥‥‥とにかく俺は、今日はこのまま学校休むから。学校行くんだったら連絡を」
「でも、今から行っても一限は間に合わないよ?」
壁の時計を指差す。
確かに、普段ならもうそろそろ学校に着いているくらいの時間だった。
「祐一がちゃんと起こしてくれないからだよ?」
病人相手に酷なことを言う。
「あのな。調子悪いんだよ俺はだから。しかも、それでも起こしに行ったのに、お前が起きなかったんだろ?」
「そんなこと言われたって、その時起きなかったんだから、私にはわからないよ」
言い分は目茶苦茶だが、確かにそれはそうだった。
げんなりした顔で祐一は溜め息を吐く。
「まあ、お休みの連絡はしておくね。私の分も」
「ああ」
部屋を出て行こうとする名雪に、だるそうに祐一は頷き返して。
「ちょっと待て。私の分も、って何だ?」
頷き返してから、慌てて訊き返した。
「今日は私もお休みにするよ。だってもう間に合ってないし、お母さんまだ戻ってないから、祐一の看病は私がしないといけないし」
「だけど名雪お前、それはずる休」
最後まで言い切ることはできなかった。
「‥‥‥喜んでも、いいよ?」
唇が触れる距離から、鼻先が掠めるくらいの距離まで離れた名雪の顔が、そんなことを言って笑うから。
ぱたぱたと足音を立てて階段を降りていく名雪の姿を、祐一は見送ることしかできなかった。
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