ピピピ。
音が聞こえる。
ちょっと見回すと、鳥居の向こうにしゃがみ込んだ舞奈の頭が見えた。
ああまた舞奈が空さんとでも。
ってちょっと待て。
何となくその場の流れで納得しかけた自分の馬鹿さ加減に自分でちょっと呆れた。
舞奈のピピピは、そうやって電波か何かを飛ばしているように見えてただけ、だった筈だ。決して、そういう音が聞こえてたからピピピ、とかじゃなかった筈なのだ。
なんで、音が、聞こえる、んだ?
もしかして、舞奈が受けてきた手術って。
‥‥‥本人相手に確認するのがちょっと恐くて、すぐ近くにいる舞奈の方へは、俺の足は向かなかった。
「か・い・ぞ・う・に・ん・げ・ん?」
意味を咀嚼するように、多香子は俺の言葉を呟き直している。
「何なの、それ?」
結局わからないらしい。やっぱりそういうのって、男の子じゃないとわからないんだろうか。
「や、だから、本当は病気はどうにもならなくて」
脳の奥の病巣だけを除去することはできなかったから、脳自体を交換して。
交換した脳ではそれまでの神経系をそのまま使えなかったから、身体そのものにも手を入れて。
結局、ここに帰ってきたあの舞奈は。
「メ‥‥‥メカ、舞奈?」
困惑する俺を小馬鹿にするように多香子が肩を竦めた。
「で、そこは笑うトコなの、宮司?」
そんなワケないでしょ馬鹿。何よメカ舞奈って。つまんないコト言ってないでさっさと働いてよ本当にもう。
一応こういうコトには常識人の多香子から、順当に、かつ常識的に罵倒されることに成功して、ようやく俺は、あの音の正体を直接舞奈に確認する気になることができた。
舞奈はまださっきの鳥居のところにいて、ピピピ音もまだはっきりと耳に聞こえている。
「な、何やってんだ、舞奈?」
「はい?」
ぽやーっと目を上げた舞奈の手元には携帯電話がある。取り敢えず俺はほっと胸を撫で下ろした。
「何か、大きい携帯だな」
舞奈の小さな両手が持っているせいか、必要以上に大きく見えるその端末には、ヒンジのところにカメラらしきものがついているのが見える。
「テレビ電話にもなるそうです。本当の使い方は、よくわからないんですけど」
「ふーん」
ディスプレイには確かに、こちらに向かって喋る誰かが映っていた。相手もテレビ電話なのだろうか。
「映ってるのはご家族か?」
「はい」
ということは、退院してまたこっちに来る時に、ご両親が持たせてくれたんだろう。多分。
「どうでもいいけど、通話料とか大丈夫なのか? 携帯でテレビ電話なんて、何か無闇にカネかかりそうなイメージがあるんだけど」
「そうなんですか? 私は払っていないので、よくわからないんですが」
言葉で俺と受け答えをしながら、画面の誰かに笑いかける。
ピピピ。電子音がまた聞こえた。
「宮司さんとお話がしたいとお婆ちゃんが言っています」
ってちょっと待て。
舞奈のお婆ちゃんって‥‥‥去年の祭りの時、舞奈がここへ来るずっと前に、確か‥‥‥亡くなってたんじゃ?
「え? あれ? 舞奈、お婆ちゃんって」
振り返った舞奈が携帯の画面を俺に向ける。
『あなたが宮司さんですか。いつも孫の舞奈がお世話になっております』
画面の向こうの老婆が穏やかに微笑んだ。
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