「写真、だな」
「はい。写真です」
「これを俺に?」
「差し上げるのではありませんよ?」
木造りのフォトフレームに納められた一枚の写真。
「できれば、私が向こうの大学を卒業して戻るまで、預かっていていただけたら、と」
「でも、自分で持っていなくていいのか? これは天野の、大事な」
「ええ。とても大事なものです。だからこそ」
「預かっていていただけたら、か」
渡る風に波立つ鮮やかな草原の緑と、
「俺でいいのか?」
「答えは御存知でしょう? きっと、私がこうしてお願いしていることの理由も」
「だから聞いてる」
「はい。相沢さんしか、これをお願いできる方はいない、と思います」
雲ひとつない青い空と、
「強くありたいんです。捨ててしまうのでも、寄りかかるのでもなく」
「うん」
「悲しい思い出とも手を繋いで、この足で歩いてゆける自分でありたいんです。相沢さんのように」
「そうか」
カメラに向かって大きく両手を振る、
「だったら、俺からもお願いがあるんだが」
「何でしょう?」
「こいつのこと、まだ俺は何も知らないんだ。だから、戻ってきて、これを返す時には」
「はい。‥‥‥今はまだ駄目ですけれど、本当は、お話ししたいことはたくさんあるんです」
金色の髪の男の子。
「わかった。預かる。だから、ちゃんと取りに戻って来いよ」
「ありがとうございます。四年経ったら必ず戻ります。ですから」
「ああ。それじゃ行って来い。気をつけてな」
「はい。相沢さんもお達者で」
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