『それじゃいっくよー! 準備はイイかなぁ?』
マイクを構えた美亜子の合図。
『エルシア後夜祭恒例、チーム対抗伝言ゲーム一本勝負! せーのぉ、スタートっ☆』
途端、校庭が静かにざわめき立った。
こそこそと正樹が真奈美に耳打ちする。
「え? ‥‥‥え、もう一回」
『聞き返してはいけません! はい次! ほらそこも!』
それでなくても騒がしい校庭の一隅に向けてステージ上からピンポイントで突っ込みを入れる美亜子。
一瞬とはいえ校庭中の視線を集めてしまった恥ずかしさのあまり、真奈美の頭が真っ白になる。
「いいから、とにかく何か言いなさいよ真奈美」
「え、あの、ええとね‥‥‥」
両手でぐいっと自分の耳に向けた真奈美の口から、菜織は何かの言葉を聞き出した。
首を傾げながらも、目の前に並ぶ乃絵美の肩を叩く。
「はーい‥‥‥うんうん。次、冴子ちゃん」
「おうっ‥‥‥あ? 何だって?」
『こらサエ! 聞き返すの禁止っ!』
恐ろしいまでの地獄耳と言えよう。
「あー、まあ、よしチャムナ」
「ん‥‥‥うん‥‥‥わかった」
自信ありげに頷いたチャムナは、持たされたスケッチブックを広げ、マジックの蓋を取り‥‥‥
「字が書けない」
そして、ぶすくれた顔でぽつりと呟いた。
アンカーは聞いた文章をスケッチブックに書いて提出する。
最初から、そういうルールである。
「だーっ!」
「誰よこの順番組んだの!」
今更騒いでも後の祭り。
少なくとも『チームl'omelette』のリタイアはここに決してしまった。
「なあ、せっかくだから答え合わせしようぜ」
冴子が虚しい提案をする。
「まあそうね。チャムナ、サエから何て聞いた?」
「ん‥‥‥きしゃがきしゃできしゃにきしゃした」
「え? だってアタイ、記者が貴社に汽車で帰社した、って言った筈だけど」
怪訝そうに冴子が振り向く。
「え? 私は、貴社に記者が汽車で帰社した、だと思ったけど」
乃絵美も振り向く。
「貴社に記者が汽車で帰社した、じゃないの?」
菜織も振り向く。
「あ‥‥‥え、あの‥‥‥記者が、貴社に、汽車で、帰社した、じゃなかったかな、って思うんだけど」
全員の視線が、スターターの正樹が持たされたメモに集中する。
『記者が汽車で貴社に帰社した』
美亜子が書いたとしか思えない丸っこい字で、そのメモにはそう書いてあった。
『チームl'omelette』一同、絶句。
「さ‥‥‥最後が合ってた‥‥‥途中ほとんど違うのに最後が合ってた‥‥‥」
「チャムナが日本語書ければ勝てた‥‥‥」
「アタイの学食チケット十セットがあっ」
「アンタ間違ってたでしょ!」
「何を? 菜織だって違ったじゃねーかよっ!」
『そこの敗者! 醜い争いは他所でやるよーにっ!』
例によって美亜子の突っ込みが入り、
「‥‥‥ごめんなさいー」
冴子も菜織も悄然と肩を落とす他にないのだった。
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