「お待たせしました」
声をかけられて、振り向いた祐一と名雪の目に、
「わっ」
「おおっ」
最初に飛び込んできたのは、美汐の手には抱えきれないような、ふたつの花束の黄色だった。
「花束を用意するのにちょっと手間取ってしまいました‥‥‥あの、どうかなさいましたか?」
「いや。向日葵の花束って、珍しいんじゃないかな、と思って」
真夏の空によく映える、地上に咲いたたくさんの太陽。光が眩しいのか、祐一は少し目を細める。
「そうですか?」
「私も、花束になったのは初めて見たよ」
「そうですか」
意外そうな感じで、美汐は胸元に溢れるような向日葵に目を落とす。
「夏らしいかな、と思ったのですけれど」
「でも、何ていうか‥‥‥えっと、綺麗じゃないんだけど」
言葉を探りながら、たどたどしく名雪が呟く。
「綺麗、っていうのとは違うけど、真琴ちゃんにはとっても似合ってるよ」
「うん。取り敢えず、間違いなく夏っぽいよな」
「そうですか。よかったです」
安心したように美汐が笑った。
「天国の花ってご存知ですか?」
不意に、美汐が尋ねる。
「え? そんな花あったっけ?」
「いや、俺も聞いたことないけど」
首を傾げるふたりに向かって、
「ええ。私も知りません」
何食わぬ顔で美汐は言ってのける。
「何だよそりゃ」
「ですから、きっと、何でもいいんだと思うんです。あの子たちに似合っていれば」
美汐の見つめるどこか遠くへ、名雪も、祐一も目を凝らす。
「それで、あの子たちも気に入ってくれたら、それがあの子たちの」
「‥‥‥天国の花、か」
ふと立ち止まった美汐の胸元で、向日葵がさわさわと風に揺れた。
「はい」
その、視線の先で。
陽炎の中で揺らめく小さなふたつの人影がぶんぶんと手を振っているのが、その時確かに、三人には見えていた。
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