「それで祐一、新婚旅行なんだけどね」
「うわ気が早いな名雪。秋子さんはともかく、まだ俺の方の親には挨拶もしてないんだぞ?」
「そうだけど。‥‥‥それじゃ、この話はもっと後にしようか?」
「いや別にいいけどな。なんだ、どっか行きたいトコでもあるのか?」
「んー、一応ほら、私たちに稼ぎがあるわけじゃないから、あんまりお金がかからない場所がいいかな、って思って」
「ふむ。まあ、それについては賛成だが」
「それでね。この間ちょっと聞いた話なんだけど、すっごく物価が安い場所があるらしいんだよ」
「ちょ、ちょっと待て。なんだ物価って? それ海外の話なのか?」
「ええとね、イスカンダル星とかいうトコ。海外っていうか地球外」
「ど‥‥‥どっ‥‥‥」
「二十年前のデータしかないみたいなんだけど、お豆腐の値段が五十円でね、地球に帰還する費用が確か三万円‥‥‥祐一、どうかした?」
「どこまでギャグなんだ一体?」
「え? あれ、何かおかしかった?」
「‥‥‥ひょっとして、マジ?」
「‥‥‥ん」
「あー。俺も前に何かで読んだだけの話だが、何年か前、国際宇宙ステーションとかいう場所に観光旅行で行った人がいたらしい」
「うん」
「それは人類史上初の宇宙空間への観光旅行だったらしいが、確か費用がおよそ二十五億円。加えて八百時間の訓練」
「にじゅう‥‥‥ごおく‥‥‥えん‥‥‥って‥‥‥あれ? いくらくらい、だっけ?」
「馬鹿。何をパニクっている。二十五億円は二十五億円だろ。同じだ単位は」
「あ。そっか。そうだね、って二十五億円っ?」
「三万円のチケットに換算すると、あー、ちょっと待て、ええと八万三千三百三十三枚か。それだけ払っても、地球のちょっと上にある宇宙ステーションがせいぜいだ。ましてその、イスカンダル星か? 何光年離れてるか知らないが、地上の全部の金を誰かに払ってもまず生きてるうちにはそこまで連れて行ってもらえないし、仮に着いても帰って来れない。宇宙ってのはまだそんなトコだ」
「‥‥‥もしかして、私、騙されてた?」
「もしかしなくても思いっきり騙されてる。なんか例えばそういう設定のゲームか何かがあったとか、そんな話じゃないのか? つーか今時、そんな与太話に本気で騙される奴なんて名雪くらいだと思うが」
「うー。ごめんなさい」
「いや、いいけど。でも、いくら女の子でカガクギジツとかに疎いったって、それはちょっと騙され過ぎだ。もう少し新聞とか読んだ方がいいぞ」
「そうだね。そうするよ。‥‥‥っていうか、流石にちょっとショックだよ」
「それで名雪。そんな与太話、誰から聞いたんだ?」
「お母さんだよ」
「‥‥‥え?」
「ねえ、もしかして本当は、本当に三万円で行けたりとかしない? 祐一の言うことが正しいことなのはよくわかったけど、でも、お母さんはそんな変な嘘つかないと思うよ?」
「ま、まさか。あり得ないって。‥‥‥あはははは」
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