「それでね、今日、一緒に買い物に行ったんだけど」
『うんうん』
「耕平くんがね、他の買い物のついでに、買ってくれたの」
『え? それって、明るい家族計画? 大人のオモチャ?』
「違うよ、もう‥‥‥。えっと、リップクリーム」
『リップクリームなの? リップスティック、じゃなくて?』
「ん。ねえ恵理ちゃん、そういうの、どう思う?」
『どうって‥‥‥どうって、なんかもう当たり前すぎて、何聞かれてるのかよくわかんないんだけど?』
「やっぱりそうかなあ? 当たり前、かなあ? ‥‥‥返さないと‥‥‥ダメ、かなあ?」
『へ?』
「もらった口紅は返す、ってよく言うじゃない」
『返すって、どうやって?』
「あ‥‥‥も、もしかして、知らなかった?」
『何が?』
「ほら‥‥‥口紅は唇に塗るじゃない? そしたら、もらった口紅を塗ったら、もらった人に返すのよ。その‥‥‥あの」
『ああ! 口移しで返す、ってコト? ふーん』
「‥‥‥知らなかった?」
『‥‥‥全然知らなかった』
「ああ、やっぱり‥‥‥」
『で? もらったの、口紅じゃないんでしょ?』
「ん。そうなんだけど。耕平くん、そういうの知っててくれたのかな、って」
『知ってたら、返して欲しかったら、耕平だったら口紅くれると思うけど? 千晴さんとかいるし、そういうのって知ってそうじゃない?』
「でも、耕平くんのまわりにいるの、その千晴さんとか、タマちゃんとかだよ? ‥‥‥知ってそう、だと思う?」
『知ーらないっ』
「恵理ちゃん‥‥‥」
『そんなのさ、翠が自分で教えてあげたらいいじゃない。つきあってるんだからさっ』
「え? そ、そうだけど‥‥‥つき、あってる、けど」
『じゃ、いいじゃない。それで耕平が知らなくて、やっぱり返せとかもし言い出したって、別にそんなの、困るようなコトじゃないでしょ?』
「うう‥‥‥そうだけど」
『ま、頑張れ、翠!』
「だから何を頑張るのよ」
『それはもちろん、明るい家族計画とかぁ、大人のオモチャとかぁ』
「もう、恵理ちゃんってばぁ‥‥‥」
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