Tele-Control  〜「ハートのクッキー」への小さなオマージュ〜 


  



001.Meguri = Kohei


「お〜っす耕平! で、なになに? 翠と今日どこ行ったって?」
『もしもし‥‥‥あ? なんだ恵理か? って何で恵理がそんなこと知ってるんだよ』
「いいじゃないの。細かいことは気にしない気にしない。で?」
『で、って‥‥‥ああもうしょうがねえなあ。公園だよ。あの、この間例のアミューズメントパークの近くにできたって宣伝してたろ? でっかい噴水があるとかって。あれだよ。っても1日芝生に寝っ転がってただけだけど』
「ほお。公園ねえ」
『まあ、いい天気だったから気持ちよかったよ。噴水んとこで子供がわいわい遊んでてさ、俺子供ってうるさいだけだとずっと思ってたんだけど、意外とああいうのって見てて飽きないのな。子供好きになっちまうかと思ったぜ』
「ほほお。目に浮かぶようだねえ。あ、でさでさ、クッキーはおいしかった?」
『クッキーって、ああ翠の? うん、まあ味はよかったんだけどあの形は結構不思議な‥‥‥だから何で恵理がんなこと知ってるんだ? まさか翠から』
「野暮なこと聞かないの。そっか、おいしかったか。うんうん」
『なんか‥‥‥嬉しそうだな』
「そりゃそうよ」
『‥‥‥なるほど。そういうことか』


001.Midori - Kohei


 (つーっ つーっ つーっ)
 ‥‥‥。繋がんないなあ。








002.Meguri = Kohei


「まったくね〜、最初あの手際のよさ見た時はどうなることかと思ったけど‥‥‥でもね翠って凄いのよ、英語のレシピの本なんか初めて見たのにすらすら読んじゃってさ。あたしは作り方知ってるから字が読めなくても何となくこんな感じってやってたんだけど、ちゃんと読んでもらってみたらあたしも結構間違ってんのね。驚いちゃった」
『へぇ、英語のレシピねえ‥‥‥でもなんでそんなの恵理が持ってんだ?』
「へっへ〜ん」
『‥‥‥今、何となく、自分がものすごく小さく見えたような気がする』
「なんて本当はね、あれはあたしのじゃなくてママのだから。ママも全部読んだかどうかは知らないけど」
『なんだ。そんなとこだと思ったよ』
「あ〜。何でよ〜? どうせ読めもしないんだからあたしがそんなの買うわけないとか思ったんでしょ、失礼ね。自慢じゃないけどね、あれはたまたまママのだけど、あたしだって自分で英語の‥‥‥英語だけじゃなくてロシア語のレシピとかイタリア語のレシピとかなんかも買ったことあるんだから」
『ほお。で、それ読んだのか? 何か作ってみたか?』
「ぜ〜んぜん。当然読めやしないわよ、英語からしてろくに読めないのに」
『‥‥‥そんなとこだと思ったよ』


002.Midori - Kohei


 (つーっ つーっ つーっ)
 どうしたんだろう‥‥‥あ。ひょっとして、恵理ちゃんかな?








003.Meguri = Kohei


「さて。そしたら今日はもう切るね」
『ん。それじゃおやすみ。また明日な』
「はいはい。おやすみなさ〜い」
 ‥‥‥さてと。








004.Midori = Meguri


 (ぷるるるるる ぷるるるるる)
「あれ‥‥‥はい。鳩羽です」
『もしもし。夜分すみません、菜乃花と申しますが』
「あ、恵理ちゃん? 私」
『翠? やっほー』
「なあに? 何かいいことあったの? 何だか声が嬉しそう」
『へっへ〜ん。聞いたわよ聞いたわよ、公園で何してたって?』
「き‥‥‥聞いたって、まさか」
『うん。今、電話で耕平から』
「そっか、それで繋がらなかったんだ」
『あ、かけてたんだ。耕平んとこ?』
「うん、そう‥‥‥って恵理ちゃん、耕平くんから何を聞いたの? まさか」
『ぜ〜んぶ、よ』
「うそ‥‥‥そんな‥‥‥じゃあ、あの、あの‥‥‥こっ、こっそりキスしたこととか、も‥‥‥?」
『うわ、あんたたち公園でそんなことしてたの? ま〜ったくもう、お熱いことでございますわね』
「え?」
『公園の芝生で日がな一日寝っ転がってた。噴水のまわりで子供が遊んでて賑やかだった。思わず子供好きになっちまいそうだった。‥‥‥耕平の話はこれでぜ〜んぶ、だったけど?』
「あ‥‥‥あっあっ‥‥‥」
「馬鹿ね〜墓穴掘っちゃって。見事に舞い上がっちゃってるんだから」
「あうう‥‥‥」


004.Kohei - Midori


 (つーっ つーっ つーっ)
 おい‥‥‥まさか恵理の奴、早速翠で遊んでるんじゃないだろうな‥‥‥








005.Midori = Meguri


「もうっ。意っ地悪っ」
『いいじゃないちょっとくらい。‥‥‥やきもちくらい、やかせてよね』
「‥‥‥えっ?」
『あんなに振り回しちゃってあたし馬鹿だったんだなって自分でも思うけど、でも、あの時あたしが耕平のこと好きだったのは絶対嘘じゃないし』
「あ、あの‥‥‥恵理ちゃんっ!」
『ふわぁ! どっどうしたのいきなり』
「あのね、恵理ちゃん‥‥‥あの‥‥‥悪いんだけど‥‥‥それは駄目だよ。私、本当に、本当に耕平くんのこと」
『‥‥‥あはははははははっ! そんなつもりないから大丈夫だってば! 別に今更翠から耕平取り上げたいわけじゃないよ。あたしそんなことしたくないし、大体そんなの耕平は喜ばないんじゃない?』
「え‥‥‥あの‥‥‥それは‥‥‥その‥‥‥」
『あの時のあれはさ、耕平に恋する自分に酔ってただけだったかも知んないとか、今だから何となくわかることってあるんだ。やっぱりね、どっか違うのよ。カタチから入ったらそういう風になるってもんでもなかったみたいで』
「でも、でも好きなんでしょ?」
『うん。好きだよ。でもさ、好きだって色々あるじゃない。親友‥‥‥とか、改めてそういう、どっちも寄りかからないままで自然に支えになってあげられたらいいなって今は思ってるし。それよりさ、翠』
「ん?」
『今翠があたしに言おうとしたこと、そのまま耕平に言ってみていい?』
「え? 言おうとした‥‥‥こと、って」
『ま〜たトボけちゃってぇ。恵理ちゃんっ! 悪いんだけどそれは駄目だよっ、私本当にっ、本当に耕平くんのことっ!』
「えええええええええええええええええええええええええっ!? やだ駄目よっ! 駄目、そんなの絶対駄目っ!」
『きゃはははははははははははっ! ‥‥‥だぁってあの翠のマジな声! あれは絶対テープに吹き込んどくんだったなあ』
「そっそっそんなことしたらっ、おっ、怒るわよっ」
『別にそんなのいいじゃん。どうせもうつきあってるんだしさ。それくらい真顔で言えて普通だと思うけど?』
「それは、その、そう‥‥‥そう、かも知れない、けど」
『話すことがなくなっちゃったら恐いからなんて可愛いことばっかり言ってると、これからもずーっとデートのたびに早起きしてクッキー焼かなきゃいけなくなっちゃうぞ?』
「いいもん‥‥‥そしたら毎回クッキー焼くもん」
『あ〜もう、はいはい。わかったわよ、黙っててあげる』
「約束だからね?」
『は〜いはいはい‥‥‥ぷぷっ』
「‥‥‥本当に大丈夫なのかなあ」
『まあいいわ。今日のところはこのくらいで勘弁してあげる』
「何が勘弁よ‥‥‥っとにもう」
『ぶつぶつ言ってないの。多分耕平、翠の電話待ってるよ?』
「あ‥‥‥あの‥‥‥うん」
『んじゃね。また明日』
「うん、また明日」








006.Midori - Kohei


 (つーっ つーっ つーっ)
 ‥‥‥恵理ちゃん‥‥‥繋がらないよ‥‥‥?


006.Kohei - Midori


 (つーっ つーっ つーっ)
 あれ? まだ話し中かよ。しょうがねえなあ‥‥‥
 もうちょっと待ってみるか。








007.Midori - Kohei


 遅いな‥‥‥電話、まだかな‥‥‥
 また、かけてみようかな‥‥‥?
 (かちゃ)


007.Kohei - Midori


 (つーっ つーっ つーっ)
 まだ喋ってんのか。恵理の奴、相変わらず長い電話だな‥‥‥








008.Midori = Kohei


 う〜ん‥‥‥もう1回かけてみて、それでも話し中だったら
 (ぷるるるるる ぷるるるるる)
「ひゃあっ! ‥‥‥はっはい、鳩羽です」
『あ、翠?』
「耕平くん? よかったあ‥‥‥耕平くんだあ‥‥‥」
『‥‥‥何だそりゃ? それより翠、今恵理と話してなかったか?』
「あ、よくわかったね」
『あいつめ‥‥‥本当に両方にかけてたんだな』
「でもいいよ。ちゃんと耕平くんとも繋がったから」
『そっか‥‥‥じゃあ、まあいいか。っとそうだ、恵理に教わったんだって? あのクッキーの作り方』
「うん。恵理ちゃんに聞いたんだ?」
『さっきな。結構感心してたぜ? なんか、レシピが英語だったんだって? すらすら読んじゃって凄いとか』
「でもね、ああいうのって教科書じゃないから、必要なことしか書いてないでしょ? だからよく出る単語って割と決まってるし、そういうの知ってれば教科書読むよりは簡単だと思う」
『そういうもんかな?』
「そうだよ。それにね‥‥‥」

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