「でね、土曜日に正樹くんがうちに来ることになったから、それじゃ何か食べたいものある? ってさっきメールで聞いたら」
『うん』
「返事にね、キス、ってだけ書いてあったの」
『はあ』
「天ぷらとかお刺身とか、もうちょっと何か書いてあるとよかったんだけど。ねえ菜織ちゃん、それより土曜日、手伝ってくれないかな? あたしお魚のお料理苦手だから、ちょっと困っちゃって」
『そんなこと言ったって真奈美、魚以外も苦手でしょ? ‥‥‥ま、今回は遠慮しとくわ。心配しなくても正樹が料理してくれるわよ、ちゃんと』
「えー? そうかなあ?」
『大丈夫大丈夫。そうだ、朝のうちにスーパーで買っておいた方がいいかもね、鱚の方も』
「う、うん。そうだね。‥‥‥方も、って?」
『それじゃもう遅いから切るわよ。おやすみなさーい』
「あっあのちょっと、菜織ちゃ‥‥‥うう、おやすみなさい‥‥‥」
準備のつもりで真奈美が買い込んだ鱚は、結局、正樹にも捌けなかった。
包丁が要らない方は随分過剰に料理されてしまったのだが。
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