「恵くーん、開けて開けてー!」
とドア越しに部屋の中へ叫びながら、がんがんがんとそのドアを蹴っているのは、もちろん、橘さんで。
「ねえちょっと、いるんでしょ恵くんってばっ!」
いつもならノックもなしでいきなり開けるドアをいつまでも蹴りまくっているコトにどういう理由があるのかは知らないけど。
「開かないと思うよ? だって」
取り敢えず僕は声をかけることにした。
「えっ?」
「僕、外にいるし」
自分の部屋の外側。
つまり、橘さんの背中の方から。
「まったく、なんで中にいてくれないのよっ!」
「って、なんで怒鳴られなきゃいけないんだよ? 僕にだって僕の都合があるでしょ」
「ダメよ! 私が重いじゃない!」
何ていうかもう、この辺になるとほとんど言いがかりに近い。
「それはポテチの食べすぎ」
「違うそういう意味じゃない!」
噛みついてきそうな顔をしているが手は出てこない。
って、そういえばさっきから、
「何持ってんの、それ?」
「だから手が塞がってるの! もっと早く気づきなさいよね」
重そうに胸の高さまで持ち上げてみせるのは、
「す‥‥‥い、か?」
「そうよ」
「なんでこんなのが?」
「どうだっていいでしょ」
ぶすくれた声で呟く。
「さ、切って切って、恵くん」
部屋に入るなり、ぼすっとテーブルに置いた西瓜を、橘さんは指差す。
「ひょっとして橘さん」
「ん?」
「自分で切るの、面倒くさかっただけなんじゃないの?」
「だって私が切ると綺麗に半分にならないんだもん」
次に手渡されたのは包丁だ。
「いいから切って切って。今年始めての西瓜なんだから」
っていうか、西瓜といい包丁といい、どっからこんなもんを?
「いいけど、何等分するのさ?」
「へ? 二等分でしょ? 恵くんと私しかいないじゃない」
「僕、こんなに食べられないよ?」
「でも食べちゃわないと、ここ冷蔵庫なんかないでしょ?」
「だったら、周りの部屋にお裾分けするとか、何かこう」
「ダメよ! せっかく」
‥‥‥『せっかく』何だったのか、その時、僕にはまだわからなかったけど。
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