「丘野さんの田舎ってさ、なんか珍しい動物とかいないの?」
「珍しい? ん〜、あたし田舎にいる時は全部当たり前だと思ってたし、でもこっち来てみたら田舎にいるようなのはほとんどいないし、どういうのが珍しいんだかよくわかんないや。‥‥‥ああ、マントヒヒは珍しいかな? あたしも1回しか見たことないし。キミ、見たことある?」
「ま‥‥‥んとひひ? 何だっけそれ、名前は聞いたことある気がするけど」
「こーんな襟巻きみたいな白い毛が顔のまわりにばーってついてる猿だよ。知らない?」
「ああ、あれか。思い出したよ。図鑑か何かで見たことあるんだな、多分」
「マントヒヒってさ、エジプトじゃ神様なんだって。ちょっと凄いよね」
「え、でもエジプトでしょ? あそこはフンコロガシだって神様だし。それよりさ、日本に野生のマントヒヒっているの?」
「うーんと、確か、いなかったと思う」
「‥‥‥丘野さんの田舎って、日本?」
「日本だよ。当たり前でしょそんなの、違ったらあたし日本人じゃないじゃん」
「でも、マントヒヒがいるの?」
「それが不思議なのよね‥‥‥誰かペットのつもりで持ち込んだけど飼えなくなって山に棄てたとか、動物園から逃げてきたとか、まあ何かワケはあるんじゃないかって思う‥‥‥誰だか知らないけど、可哀想なことするよね‥‥‥」
「まあ、本当はいない筈だろうから、そんなとこなんだろうね」
「でもあれさあ、マントヒヒって名前はよくないと思わない?」
「え? なんで?」
「だってあの毛の色が違うとこがマントみたいだからマントヒヒなんでしょ? キミはあれ、マントみたいだって本当に思う?」
「え‥‥‥まあ、言われてみれば、襟巻きみたい、の方が近い気もするけど」
「でしょ? やっぱりそう思うでしょ? だからあれ、マントヒヒじゃなくてエリマキヒヒとか、なんかそういう名前じゃないといけないと思わない?」
「いけないかどうかはよくわかんないけど‥‥‥マントみたいには見えない、ってとこは賛成してもいいかな」
「点が辛〜い! もうひと声っ!」
「何だよもうひと声って」
「いや、まけてくれないかなって思って」
「俺がまけたって何もつかないだろうに」
「まあそれはそうなんだけどさ、でもあるじゃん、そういうことって」
「そうかなあ?」
「あー。いいもーん、そういうこと言うんだったらあたしだってまけてあげないからねっ」
「丘野さんがまけてくれたって何も出ないでしょ?」
「出るかもよ? 野菜とか」
「う‥‥‥ってなんか俺、買収されてない?」
「さーて何のことだかっ。あ、あたしこっちだから。それじゃまた明日!」
「ああ、また明日っ!」
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