「あ、名雪。ちょっと来てみ」
手首から先だけをドアの隙間から出して、祐一は廊下を歩く足音に手招きする。
「どうかしましたか、祐一さん?」
しかし祐一の予想に反して、隙間から顔を覗かせたのは秋子だった。
「あれ?」
「名雪を呼んで来ましょうか?」
「や、いいです。特に用ってほどでもないんですけど。ほら」
ひそひそと話しながら祐一が指差すベッドの上で、
「あら」
手巻き寿司とか春巻きの具になったみたいに、ひとつのタオルケットに包まったあゆと真琴がすうすうと寝息をたてている。
「部屋のあっちとこっちでうとうとし始めたんで、取り敢えず両方ベッドに寝かせたんですよ。最初はふたりとも自分の方にタオルケット引っ張ってたみたいですけど、相手に合わせて転がった方が楽だってそのうち気づいたらしくて」
「それで、あんな風に?」
「まあ多分。ずっと眺めてたわけじゃないですけど」
「仲がいいのね」
起きてれば、ケンカしてるか、騒いでるか、なんだけど。
言われてみると、こんな風に黙って寝てると仲がいいように見えるよな。今更のように祐一は思う。
「祐一さん、二つ繭ってご存じですか?」
人差し指を立てる仕種。
「いえ」
「蚕の繭は、普通はひとつの中に一匹だけ蚕がいるんですけれど、時々、二匹の蚕が一緒に大きな繭を作って、二匹ともその中にいることがあるそうです。そういう繭のことを、二つ繭とか、玉繭とか、そんな風に呼ぶみたいですね」
‥‥‥タオルケットで一緒に繭を作って、ひとつの繭に一緒に包まった、二匹の蚕。
「ね?」
「ああ、なるほど」
そこで急に、秋子がぽんと両手を合わせた。
「やっぱり私、名雪を呼んで来ますね」
「え?」
「きっと滅多にないことですから」
楽しそうに秋子は部屋を出ていって、再び静まり返った祐一部屋の中には、相変わらず、規則正しいふたり分の寝息の音だけが響き続けていた。
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