「なあ多香子、俺って呪われたりしてるのかなあ」
「はい? いきなりわけわからないこと言って掃除の邪魔するのは止めてよね。ボクは忙しいんだよ」
ふらりとやってきて言い寄ってくる宮司に、多香子は床を拭く手を休めず顏だけを向けた。
「だってさあ、さっき……」
「さっき、なにかあったの?」
ようやく多香子の手が止まる。
「籤を引こうとしたんだ。運勢どうかなと思って」
「引くのはいいけどちゃんとお金置いておいてね。あとで計算が狂うから」
「セコいな。って、そんなことより」
宮司の固い表情がさらに難しくなった。
「あれさ、引こうとしたらどうなったと思う?」
「どうなったもなにも、口が詰まって出てこなかったとか。ま、それは呪いじゃなくて宮司がお神籤なんて引いちゃだめというお告げでしょ」
なんだという顏をして、多香子はまた手を動かしはじめる。
「そんなことなら呪いもなにもないだろう。違うんだよ」
「だったら、なにがあったのよ」
いいかげんにしてほしいという思いのせいか多香子の声が荒くなる。
「あの筒がさ、いきなり飛んだんだ」
「……はい?」
宮司の真面目な顏と言葉にとっさについていけず、多香子は呆気にとられた。その手から布巾が落ちる。
「見上げる先で浮いている筒から籤の棒が飛び出してきて……」
「ちょ、ちょっと宮司ってば」
「その籤が筒を取り囲むようにちらばって、そして」
宮司がごくっと息を飲む。
「いきなりこっちに飛んできたんだ、“ピシュンピシュン”って。とっさに躱して、でもあらゆる方向から飛んでくる棒が衣をかすめて……びっくりしたけど、なんとか逃げようと、それでも」
「おーい、宮司。もしもーし」
「気がついたら筒は元通り。とりあえず俺は生きてた」
今まさに生還してきたという顏の宮司。呆れ顏の多香子。
「あのさあ、宮司。キミ、夢でも見てたんじゃない。アニメかなんかの見すぎ」
「まあそう言われるだろうとは思っていたけど」
話すだけ話したからか宮司の表情から固さが抜けていた。
「もしそれがそうだとしても、とにかく怪我しなくてよかったじゃない。さあさあ、籤のことなんてさっさと忘れて仕事しなさい、仕事を」
布巾を持ち直し、改めて多香子は床をみがいていく。
なおもぶつぶつつぶやきつつも宮司は多香子に背を向けた。元来たほうへと歩き去っていく。
「……なあにが“ピシュンピシュン”よ。宮司もいつまで経っても子供なんだから」
既に遠く離れた宮司の背中が小さく見える。
と、彼の頭上に何かが煌めいた。
え?と多香子が思ったとき、一直線の軌跡が彼の背中をかすめ地に刺さった。
直接当たらなかったのだろう。気がつかずに宮司はそのまま歩いていく。
「あれって、な、なによ……」
呆然と立ち尽す多香子の視線の先に、今度は地から天に向かって新たな軌跡が光った。
[プロヴィデンス[B] title:織倉宗 / cast:やまぐう / author:やまぐう]
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