「‥‥‥お母さんって、私?」
「うん」
「大学の就職課で、私みたいになりたい、って言ったの?」
「うん」
「それは‥‥‥それで、就職課の方から電話が来たのね」
「電話? 電話なんか来たの?」
「夕方にね。進路指導をしているんだけど、いまひとつ要領を得ないからご家族で相談してみてください、って」
「ごめんなさい‥‥‥あの‥‥‥あのね。でも本当はわかってるよ、私」
「ん?」
「わかってるんだよ。就職課の職員さんはそんな答えが聞きたいんじゃないって。だけど、お母さんみたいになりたいって、お母さんみたいにいつも笑ってて、それでまわりがみんなしあわせになれる人になりたいって、それは私いつも思ってるけど、その他は」
「そう? それなら取り敢えず、できることをお仕事にしてみたらどうかしら」
「でも、そういうのでいいのかな? やりたいことが思いつかないとか、お仕事で夢を見ないのはとってもいけないこと、みたいに進路室の職員さんは言うけど‥‥‥そういう風に、やりたいことは何ですかって聞かれてるのに、できるのはこういうことですって答えは、いいのかな?」
「やりたいことがそのままお仕事にできる人ばかりじゃないわ。そうなることはしあわせだけれど、そうでないのはいけないことだ、とは私も思わないし。本当に大切なことは」
「大切な、ことは?」
「生きているってことだと思うの。それも、できるなら、なるべくしあわせな状態で。多分お仕事はそのために必要だけれど、それが人生のすべて、みたいな勘違いもあまりよくないと思うの。だからいいのよ、そんなことにこだわらなくたって。‥‥‥そうね、もしかしたらあゆちゃんも同じように不思議がるかも知れないけれど」
「あゆちゃんが?」
「床屋さんになるって言ってるそうよ。祐一さんから聞いたんだけれど」
「へえ‥‥‥格好いいね、そういうの」
「そうね。頑張って欲しいと思うわ」
「そう、だね。うん、私も頑張るよ。何になるのかはまだよくわからないけど、とにかく私は、みんなとしあわせになるんだよ」
「ええ。それでいいんじゃないかしら?」
「それでねお母さん、できそうかなって思ってることの中だったら、やってみたいことは幾つかあるんだよ。前に真琴ちゃんがやってた保母さんとか、陸上のことを教える人とか‥‥‥」
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