窓から差し込む日差しはだんだんと赤い色を帯び始めていた。
細く紫煙を吐き出しながら机上の電話機を見つめている。
掛かってくるアテがあるということではない。
掛けようか、止めようか。
そんなことばかりもう何時間もぐるぐると考えている。
ただそれだけの午後。
こんなこと悩んでんのなんて中学生とか高校生とかだよな。
そんなことを考える。
だからといって別にそんな初々しい中学生や高校生だった憶えも自分にはまったくない。
割と調子よく、それなりで結構何とかなってしまってきた、自分の中学時代や高校時代をふと思う。
好むと好まざるとに関らず、自分の身の丈を越えた何かにならざるを得なかった仲間たちのことを思う。
とりたてて成功も失敗もしなかった人生から新しい何かを掴み出すことは難しい。
そんなことも難しい俺はせめて、そういう連中の邪魔をするのは止そう、とだけは思う。
デートをしようだなんて、だからそんなつまらない電話なんて、こっちから掛けていい筈もない。
空いた手でくしゃくしゃと頭を掻き回しながら、同じような手の動きで、まだ半分は残っている煙草の火を揉み消す。
灰皿に転がっていたのは、そんな風に中途半端に消された煙草ばかりだ。
誰にもなれない自分への苛立ちとか、そういうのまで一緒に揉み消せたらいいのに。
‥‥‥もう今日も、窓から差し込む日差しは、その権利を月や星に譲る支度を始めたようだった。
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