#1.外階段  


  

「外階段ってあるでしょ? ほら、先生たちの玄関の」
 必要以上に声を潜めて、美琴が話し始める。
「ああ、あるな。それが?」
「それがね、聞いた話なんだけど、実は午前零時から少しの間だけ、一段増えて‥‥‥あ。なんかひょっとして、もう信じてないでしょ直樹?」
 この学園以外でも既に何度か聞いた憶えがあるような、ありがちな都市伝説の類だった。
「簡単に信じる奴の方をどうにかするべきだろ、むしろ」
 直樹の反応も心なしか冷たい。
「えー? そうかなあ?」
「大体それ、誰が確かめたんだ? 何か証拠とか」
「んー、そういうはっきりしたことはよくわかんないんだよ。だから直樹、それを今晩確かめに来ようよ」
 続く美琴の言葉は、あっさりと直樹の想像を越えた。
「‥‥‥何だって?」
「嘘か本当かわからない時は、自分で調べるのがいちばんだよ。ね?」
「待て美琴。まさかそれは、夜中学園に忍び込むから一緒に来い、とか言いたいんじゃないだろうな?」
 直樹の頬が引き攣る。
「もちろん!」
 嬉しそうに笑いながら美琴は大きく頷いてみせるが、結局あっという間に押し切られてしまった直樹の方が、頷いたのか、それとも項垂れたのかは、見ていた美琴にもよくわからなかった。



「なんか、思ったより静かだね」
「そりゃ真夜中だからな」
 同日深夜。
 思ったよりも簡単に忍び込むことに成功して、美琴と直樹は今、その外階段の真下に身を潜めている。
「時間は?」
「ん、あと四分くらいで十二時。ねえそれより直樹、今のうちに普通の階段の数も数えておこうよ」
「いいよ。十二段ぐらいじゃなかったっけ?」
「確かにそれくらいだけど、でもうろ覚えじゃ意味ないよ。ほら、あと四分しかないよ?」
「いやでも守衛さんが‥‥‥わかった、わかった行くから引っ張るなって」
 両手で摘んだ直樹の服の裾を引っ張ったまま、美琴は階段の前に立つ。
 明るい間に見慣れている筈の風景だが、夜中に見上げると印象がまるで違った。薄闇に沈んだ階段や、高い壁のような管理棟のシルエットが、何か言い知れない悪意をもって見下ろしている、かのように思えてしまう。
「ほら行くよ? せーの、いーち」
 何かを誤魔化すように明るく音頭をとって、美琴は階段の一段目に足を掛けた。
「もしかして美琴、本当は恐いんじゃないのか?」
「にーい、さーん、しーい」
 直樹の質問には聞こえない振りをして、わざとらしく大きな足音を立てながら、美琴はその階段を上っていく。
「じゅーいち、じゅーに、っと」
 そうこうするうちに、下から三分の一くらいの高さにある踊り場に到達。
「十二段。合ってるな」
「でも、まだあんなにあるよ?」



 その、ごりごりと煉瓦同士が擦れ合うような低く鈍い音が耳に届いたのは、踊り場から先へ続く階段を美琴が指差した、ちょうどその時だった。



「‥‥‥え? なに? 直樹、これ何の音?」
 足元が激しく震えているのを感じる。音だけなら気のせいで済む話だったのかも知れないが、どうやらこれは、気のせいで済む話ではないらしい。
「わからないけど、何かおかしい。ここは離れよう」
「離れるってどっちへ? 直樹、ねえ」
「焦るな美琴。大丈夫だから」
 覚束ない足元を無理矢理踏み締めながら、不安そうに裾を摘んでいた美琴の手をぎゅっと握る。
「くそっ。わかんないから下へ行こう。降りるぞ美琴!」
 結局、どこで何が鳴っているのかは直樹にもよくわからないようだったが、
「うんっ!」
 それでも、確かに美琴の胸を占領しかけていた恐怖めいた感情は、まるで嘘のように消えてしまっていた。
「‥‥‥って、あれ? 直樹、今、階段」
 手を繋いだまま鳴動する階段から降りきったところで、ふと、美琴は振り返る。
「気のせいかな? 降りてくる時は十三段あった、ような気がするんだけど」
「‥‥‥は?」
 改めて見上げる階段は相変わらず薄闇の中にあって、ふたりが目を凝らしても、正確な段数はわからない。
「も、もう一回、上ってみる?」
 さっき聞こえた振動音がまだ僅かに耳に残っている。
 今は揺れていない筈の地面がまた震え始めたら、どうすればいいかわからない。
 今はまだ‥‥‥もう一回この階段を上るなんて、そんな気にはとてもなれそうにない。
「止めとこう美琴。もういいだろ、今夜はこれで帰って」
 直樹が言い終わる前に、
「ふう。今日はこんなところでしょうか」
 踊り場の方から、誰かの声が聞こえてきた。



「あら? 久住くんに天ヶ崎さんじゃないですか。こんな遅くにこんなところで何を」
「それはこっちの台詞です。どっから出てきたんですか一体。っていうか大体こんなところで何やって」
「え、私ですか? 私は、施設の点検ですよ?」
 三人目の声の主‥‥‥結はこともなげにそう言う。
「実は、この踊り場の真下には予備のアンテナと制御端末が設置してありまして、ほら」
 見ると、結が指差す床のあたりが、ちょうど階段の一段と同じくらい、地面と平行に持ち上がっていた。それはそのまま真横にスライドしていて、床板がもともと嵌まっていた筈のところに、今は真四角の暗闇がぽっかりと口を開けている。
「じ、十三段目、ってこれか」
「うん。理由はともかく、噂は本当だったんだね」
「入り口がこれしかないので、夜中でないとメンテナンスも‥‥‥噂、って何ですか?」
 今度は結が首を捻る番だった。
「いや、ですから、この階段は零時過ぎると一段増えるって噂になってて」
「一体誰がそんな根も葉もないことを」
 そう思っているのは結だけで、根っこも葉っぱも、まさに今、この場に現存しているのだが。
「‥‥‥まさか、久住くんも天ヶ崎さんも、そんなことのために、こんな夜中に忍び込んできたんですか?」
 そこに口を開けた真四角の暗闇を直樹が指差すよりも早く、つついてもいない藪から蛇が出た。
 そう言われては返す言葉もなくて、ばつが悪そうに顔を見合わせるしかない。
「こんな夜中に出歩くのもよくありませんが、しかも学園に忍び込むなんて、先生は感心しません‥‥‥今度のことは内緒にしておきますから、ふたりとも今日はもう帰ってください。明日遅刻しちゃダメですよ?」
「わかりました」
「それじゃ先生、お休みなさい」
「はい、お休みなさい。‥‥‥あ、それと」
 思い出したように付け加えられた結のひとことで、真相は闇に葬り去られることになった。
「久住くんたちも、この装置のこと、内緒にしておいてくださいね」

[MENU]
[CANDYFORCE]
[Hajime ORIKURA]
[▽ARCHIVES]
 / chain
  / ペールギュント
  / ルーペ
  / 植える。
  / 太陽
  / たくさん書いた
  / ロリータ
  / 銀色
  / 古着
  / 流布
  / バスターライフル
  / rumba
  / 降る。
  / fool proof
  / half.
  / 誰だあれは
  / あれは誰だ
 / ANGEL TYPE
 / FORTUNE ARTERIAL
 / Kanon
 / PALETTE
 / Princess Holiday
 / PRINCESS WALTZ
 / Romancing SaGa
 / To Heart
 / True Love Story 2
 / With You
 / 穢翼のユースティア
 / あまつみそらに!
 / カミカゼ☆エクスプローラー!
 / 久遠の絆 再臨詔
 / 高機動幻想
ガンパレード・マーチ
 / 此花トゥルーリポート
 / スズノネセブン!
 / ▽月は東に日は西に
  / 不明の石
  / いつか王子様が、/T
  / Tの蔵匿
  / 午前零時の電話
  / 東奔西走スクールライフ
殺人事件
  / calling.
  / "COUNTDOWN"/T
  / "song of a bird."(reprise)/T
  / "song of a bird."/T
  / プレゼント。
  / おかえり。
  / oblivion?
  / "Shout it loud!"/T
  / edge?
  / "09xx"/T
  / GIVE & TAKE
  / LOVE & LUNA
  / ▽truth?
    / ▼#1.外階段
    / #2.昇降口
    / #3.二階廊下
    / #4.階段
  / farewell?
  / secret?
  / semi-sweet birthday.
  / precious?
  / SHE STRIKES BACK.
  / the last resort.
  / Wednesday Moon.
  / 「よう、ミコトンドリア」
 / とらいあんぐるハート
 / ねがい
 / ネコっかわいがり!
 / バイナリィ・ポット
 / 果てしなく青い、
この空の下で…。
 / 御神楽少女探偵団
 / 夜明け前より瑠璃色な
 / ワンコとリリー
 / その他
 / 一次創作
 / いただきもの
[BBS]
[LINK]
[MAIL]

[back.]

Petit SS Ring 
[<]
[<<]
|[?][!]| [>]
[>>]

二次創作データベース

   ARCHIVES / 月は東に日は西に / truth? / #1.外階段 : << >> || top. || back.  
  [CANDYFORCEWWW] Hajime ORIKURA + "CANDYFORCE" presents.