"song of a bird."(reprise)/T  


  

 青く高い真夏の空に定規で白い線を引くように、まっすぐに伸びていく飛行機雲を目で追いながら、
「懐かしいわね、飛行機雲なんて」
 屋上の手摺りに凭れて、恭子は空を眺めている。



「懐かしい、ですか」
「ええ。‥‥‥まあ、あっちの世界にだって飛行機は当然あったのよ。だけど、飛ばせるパイロットがあまり残っていなかったし、何か起きちゃった現場へ行きたい時には、飛行機よりはヘリコプターの方が便利だったりもしてね。何だかんだで、飛んでる飛行機なんて随分見てなかった」
 眩しそうに太陽に手を翳しながら、ゆっくりと書き足されていく白い線の先端を追い続けていた恭子が、
「でも、こっちに来てからだって結構経ってる筈なのに」
「そうは言うけど、学園で生徒の相手してる時以外なんて、私たちってほとんど引き篭もりも同然の生活してたじゃない。しかも私の研究室なんか地下だから窓もなかったのよ? あんなんでいつ見るの、飛行機雲なんて」
「え? だから、ええと、保健室でぼーっとコーヒー飲んでる時とか」
「前からいっぺん真面目に聞いてみたかったんだけど、学園で生徒やってた時、あんたたちって一体私を何だと思ってたワケ?」
 そこでようやく、恨み言でも並べるかのような憮然とした顔を直樹に向けた。
「そりゃ授業受け持ってた結ほどじゃないかも知れないけど、養護教諭だって言うほど暇じゃないのよ。それをみんなして、まるでわざわざコーヒー淹れて飲むためだけに私が出勤してるみたいに」
 これが‥‥‥例えば、どこから持ってきたのかわからない『千客万来』だの『社長室』だのいう看板を、未だに保健室のドアに掛けて遊んでいる張本人の言である。それは確かに『コーヒーを飲むため』だけではないのかも知れないが、少なくとも、この行状で『仕事をするため』に出勤していると言われても説得力はあまりない。
 控えめに言って自業自得。
 直樹はそう思う。
「そんな、いくら俺でもそんな失礼なこと言いませんよ。ほら煎餅だって食べてたじゃないですか」
「ああ、そうね。あの時はお煎餅がマイブームで、特にあのスーパーにしかなかった袋売りの大っきくて硬‥‥‥なぁぁおぉぉぉきぃぃぃぃ?」
 ノリかけてしまった自分を誤魔化すように、いきなり襲い掛かった恭子は後ろから直樹の首を絞める。
「うわっくっ苦しい恭子先生げほっげほっ」
 無論、殺すつもりで絞めているわけではないし、だから実際には大して苦しくもないのだが、直樹は大袈裟に騒いでみせる。
「さよならね、直樹。遺体は未来の海に沈めておいてあげるわ。この時代の警察に見つからないように」
「いやそれ無理! 装置ないんだからもう無理!」
「‥‥‥ああ、そういえばそうね。ちっ」



 その気になれば、受け入れ側が何の準備もしていない時代へでも、時空転移装置を使って一方的に跳躍することはできる。例えば、いちばん最初の結はそうしてこの時代に降り立ち、学園の敷地の中で対になる装置を構築した。だから、この時代の側に時空転移装置が現存しないからといって、未来世界からこの時代へ結たちが再びやってくる可能性まで『完全にゼロ』と断じることは不可能だ。
 だが、それこそ結が再びやって来るくらいの大事件でも起きない限り、時空転移装置で現代から百年後の世界へ跳躍できる可能性については『完全にゼロ』といえた。
 何となれば、
『だって、結と玲をあっちへ送り返した後で、ここのとび太を壊す人が要るでしょ』
『いえ、ですからそれは、久住君や、信頼できる現代の方にお願いすれば』
『そこが現代人任せで本当にいいと思ってるの? 私だって、直樹たちが信じられないからこんなこと言ってるワケじゃないわ。でも、とび太を二度と使えないようにする目的が「現代人による悪用を防ぐこと」にあるっていうなら、二度と使えない状態になったことを見届けるのも未来人じゃなきゃ、壊す意味だって怪しくなっちゃうんじゃないの?』
『考え直してください仁科先生。いえ恭子。確かにそれは正論です、ですが、しかしそれでは恭子が二度と』
『いいわよ私のことは。直樹を連れてそっちへ還れないっていうなら、私の居場所もこっち。それだけよ』
 あっけらかんと笑って言って‥‥‥そうして、生まれ育った時代、あんなに必死で救おうとした世界へ還る唯一の手段を、恭子自らが破壊してしまったからだ。
 直樹はそれでよくても。
 恭子は。



「本当にあれでよかったんですか、とか訊かないでよ?」
「え」
 ちょうど口を開きかけたところで恭子に先回りされ、直樹は目を丸くした。
「‥‥‥なんでわかったんですか」
「わかるわよ。顔に書いてあるもん」
 そう言われたからといって、頬を擦った直樹の指先に何かのインクが残ったりするでもないのだが。
「そんな心配なんてしなくていいけど、観念はしてよね、直樹。これで私、もうどこにも還れないんだから」
 指や手のひらが擦った痕をなぞるように、恭子の唇が、直樹の頬を滑った。
「お任せください、お姉様。‥‥‥でも、学園は卒業してますけど俺まだ学生ですし、むしろそれを言わないといけないのは俺の方じゃないかって気もしますが」
「あはは。そうかもね。ま、ちゃんとやってりゃそのうちどうにかなるわよ、そんなの」
 『ちゃんとやってりゃ』のあたりが特に、恭子先生が言うといまひとつ説得力に欠ける‥‥‥と直樹は思ったが、それは口では言わないことにした。

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