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「いや、でもクッキーは本命以外か。本命はマシュマロ？ ‥‥‥マシュマロなのー？」
うあー。そりゃ何ていうか、まあこれはホワイトデーの話だから別にいいのかも知れないけど‥‥‥ってだからホワイトデーの話なんか調べてどーすんのよあたしは。しっかりしなさい。
左の肩を右手で解しながら、あたしは座椅子の背もたれにぐぐっと寄りかかり、
「ひえっ、わっわっわっわっ」
「あんまり座椅子に体重かけると転んじゃうわよー？」
‥‥‥そういうことは転ぶ前に教えて欲しかったです、お母さま。
「だけど何を調べてるの？ こんな遅くまで」
横に腰を下ろした母さんがノートパソコンの画面を覗き込む。
「んー。バレンタインのさー」
畳に転がったまま、あたしは答える。
「ああ‥‥‥なるほど。それは困ったわねえ、確かに」
悲しそうな溜め息。
「いや、別にそんな大層な話じゃないんだから、そんな悲しそうにしないでよ‥‥‥しょうがないでしょ、あたしのせいじゃあるまいし」
「でも本当、お母さんは紗英をそんな子に育てた憶えはないんだけどねえ」
「何を言い出しますかそこの母上？」
「いや困ったものだわ、娘が甘いもの全部苦手だなんて。本当はね、昼下がりの小粋なティータイムとか、ちょっと夢見てないこともなかったんだけど、ケーキも出せないんじゃねえ」
「でもふたり分買ってきて結局全部食べちゃう人が何を」
そう。お祭り自体が他人事で済んでた去年までは、こんなコトに悩むだなんて考えてもいなかったんだけど‥‥‥あたしはとにかく、甘いものが全般的に好きじゃないのだ。
自分で全然おいしいと思ってないチョコにリボン掛けて『バレンタインデーの贈り物ですー』なんて、そんなおかしな話はないと思うんだけど。
「それで母さん‥‥‥ちょっと、いつまで溜め息吐いてんの」
「え？ はいはい。何かしら？」
「あたしは、どうしたらいいのかな？」
「さあ？」
さあ、って。
向き直った頃にはもう、母さんは立ち上がりかけていた。
「あの‥‥‥さあ、とかじゃなくてですね、もっとこう、現実的というか効果的な」
「効果的な？ うーん、そうねえ」
母さんは笑った。何か思いついた顔だった。
「取り敢えず、もう寝ちゃいなさい。夜更かしは美容の天敵」
「‥‥‥もうっ！」
その辺にあったクッションを放ったが、逃げるように行ってしまった母さんには当たらなかった。
で。
結局‥‥‥あたしは、どうしたらいいのかな？
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