"COUNTDOWN"/P  


  

 しゃくっと、口元で瑞々しい音。
 続けて口の中に広がる甘味と酸味。
 ‥‥‥どこで生っても林檎は林檎だとクリフは思っていたが、それでもやはり、りんご亭の脇の木に生る林檎は、どこか懐かしい味がするのだった。



 適当に持ってきた林檎三つを全部食べ終えて、何をするでもなく屋根の上に寝転んでいると、
「あれ? ‥‥‥おかしいな、今朝見た時は四つはあったと思うんだけど」
 足元、その林檎の木の根元あたりで、どうもシルフィが何か言っているようだ。
「どうしたフィー、探し物か?」
 屋根の上から半ば身を乗り出すようにして、クリフはシルフィに訊ねた。
「あ、お、お兄ちゃん? ううん、何でもないんだけど」
 暫く、もじもじと身を捩ってから。
「‥‥‥そうだ。お兄ちゃん、ここに誰か来なかった?」
 両手で拡声器を作って、上空のクリフに訊き返す。
「いや、誰も来なかったと思うけど?」
「そっか‥‥‥」
「まあ、俺は屋根直してたから、気づかなかっただけかも知れないけどな」
 実は、作業は全然捗っていないのだが、馬鹿正直に『林檎齧りながら日向ぼっこしてました』とも言えまい。
「わかった。ありがとう、お兄ちゃん」
 頻りに首を傾げつつ‥‥‥何度も屋根の上を振り返りつつ、シルフィの小さな背中が遠ざかる。
「‥‥‥ちょっとは進めとくか」
 昼時間近の高い太陽を見上げて、クリフは呟いた。



 唐突に。
「こらクリ坊」
 レイチェルの声が、今度はやけに近くに聞こえた。
「うわっ!」
 珍しく作業に集中していたクリフは、梯子を上ってくる誰かの気配にまるで気づいていなかったらしい。驚きのあまり身を竦ませ、そのせいで屋根から転がり落ちそうになって慌てる。
「ってちょっと! 大丈夫?」
「あー、大丈夫。かなり驚いたけど」
「ごめんごめん。いや、どーせ形だけ屋根に上がってるだけで、修理なんか何もしてないだろうって思ってたから」
「酷い言われ様だな」
 ほぼ事実であったが。
「それで、どうしたのレイ姉? 昼飯の時間?」
「ん。まあ、そのこともあるんだけど」
 きしきしと梯子を軋ませながら、屋根に上がったレイチェルがクリフの脇に立つ。
「その前に、あたしの推理が当たりどうかを調べにね」
「推理?」
「ほら。そこに転がってるじゃない、林檎の芯」
 確かにそこには、修理用の道具類と一緒に、齧り終えた林檎の芯が三つばかり転がしてある。
「ああ、さっき俺が食ったけど、あれが何か?」
「やっぱり犯人はクリフだったのね」
 いきなり、レイチェルは冷然と言い放つ。
「‥‥‥犯人って何のだ?」
 もちろんクリフには、何が何だかさっぱりわからない。



「さっきシルフィに『林檎持ってきて』って頼んだのよ。今朝見た時には四つくらい生ってた、って聞いたから」
「それで?」
「取りに行ったシルフィは、『誰も取ってないんだけどひとつしか残ってなかった』、『木の下にも落ちてなかった』って言って帰ってくるわけ。でもそれっておかしいじゃない? 生ってる林檎は、生ってるままで消えてなくなったりはしないのに」
 だから、自然に落ちたか、自然に落ちたものを誰かが拾ったか、誰かが枝から直接取ったか、いずれかのことが林檎に起きていた筈だ。
 だが、林檎はそこに落ちてはいなかったし、『誰も取りには来なかった』という証言もあって‥‥‥そして今、林檎はどこにもない。
「『誰も取ってない』って誰から聞いたの、ってシルフィに訊いたら、『屋根の上にお兄ちゃんがいて、お兄ちゃんから教えてもらった』って言うから」
「あー。そういうことか」
 ようやくクリフにも話が見えてくる。
「そういえばさっき、フィーに『誰か来たか』って聞かれて、『誰も来てない』って答えたんだ」
「もしその時に‥‥‥そうね、『林檎が四つあったと思うんだけど知らないか』って訊かれてたら?」
「『そのうち三つは俺が取った』って答えたよ」
 そこまでを聞いて、レイチェルはひとつ溜め息。



「だから、別に誰かが嘘ついるってわけじゃないんだけど、でもやっぱり、『犯人はクリフ』で合ってるのよ」
「いきなり犯人扱いかよ」
「だってそうじゃない。そんなことにいちいち文句言うのも何だけど、なんでいっぺんに三つも食べちゃうのよ?」
「それは‥‥‥まあ、そういう気分だったから」
 そこでクリフは、『懐かしかったから』に類することを‥‥‥つまりは本当の気持ちを、素直に告白してしまうことを避けた。
 それはもしかしたら、これからもずっと旅人であり続けるために、そうすることが必要だったからかも知れないと、まるで他人事のようにクリフは思った。
「ふうん‥‥‥」
 何もかもを見透かすような瞳でクリフを見つめて、
「ま、それは今はいいか。とにかくクリフ、食事が済んだら市場へ行って、林檎幾つか買ってきてくれる?」
 言いながら、レイチェルは梯子を下り始めた。
「いや俺、別に今から行ってもいいけど?」
「そんなに慌てて買ってきてもらったって、あたしの仕事も食事が済んでからだもん。あんまり意味ないわ」
 それもそうだ。
「わかった。後で行ってくるよ」
 そう答えて、クリフもレイチェルの後に続く。

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