「ジャックー」
「ジャックー」
いつもそうだが、双子の声はステレオで耳に届く。
「次はー?」
「次はー?」
声だけで聞き分けろ、などというのも、まったくもって無理な注文という奴であって。
「‥‥‥その手があったか」
再び、何か思いついたような顔をして、ジャックはごそごそと部屋の中を漁り始める。
午前中だから‥‥‥という理由づけは適切でないのかも知れない。
何故なら彼女は、昼といわず夜といわず、大体いつでもそんな風だからだ。
「ノーマー」
「ノーマー」
双子はドア越しに声を挙げるが、ノーマの部屋の中からは何の反応も戻ってこない。
「いないのかな、ナミ」
「いないのかも、ウミ」
双子は揃って首を捻る。
‥‥‥と。
「あら、ふたごちゃん」
「うわあっ」
「ひゃああっ」
ノーマの声は、ふたりの背中の後ろから聞こえてきた。
「どうしたの、そんなに慌てて?」
「何でもないの。はい、ノーマ」
「はい、ノーマ」
それぞれが持っていたものをノーマに差し出す。
ひとつずつの紙コップと、その底と底を繋いだ長い凧糸。
「あら。糸電話ね」
「ジャックが作ってくれたのー」
「作ってくれたのー」
「そう、よかったわね‥‥‥それで、わたしがこれを両方持つのかしら?」
「ううん。片っぽだけノーマでー」
「もう片っぽはウミとナミー!」
双子は嬉しそうに駆けて行って、廊下の角に身を隠す。
「これで、ノーマがウミとお喋りしてるか」
「ナミとお喋りしてるかわかんない、ってジャックが言ったのー!」
なるほど。今度はそう来たわけね、ジャック。
ノーマは笑う。
相変わらず、まるで困った風でもなく。
「もしもしー? 聞こえますかー、ウミー?」
紙コップを口に当てて、廊下の向こうのふたりに声を掛ける。
『はーい!』
その紙コップを耳に当てると、今度は、ふたり分の返事が糸を伝ってくる。
「ナミー?」
『はーい!』
再度、ふたり分の声。
‥‥‥流石に、これでいきなり片方だけが返事を寄越すような簡単な双子ではない。
が。
「そうだウミ。昨夜ナミに内緒でこっそり渡したお菓子、まだ残ってたら持ってきてくれないかしら?」
『え? ‥‥‥え?』
『ずるーい! ウミずるーい!』
「ウミちゃーん、お返事はー?」
『ナミにもー! ノーマ、ナミにもお菓子ー!』
「はい。あなたがナミね?」
当然、ノーマにはお見通しなのであって。
「またバレちゃったよー! ジャックのウソつきー!」
「ジャックのウソつきー!」
「‥‥‥は? なんで?」
そして、またも考え込む羽目に陥るジャックの前で、ふたりはノーマがくれたクッキーを頬張るのだった。
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