「ジャックー」
「ジャックー」
いつもそうだが、双子の声はステレオで耳に届く。
「遊ぼー」
「遊ぼー」
ここへ来たばかりのジャックなどにはとても聞き分けられたものではない。
「ああ‥‥‥えっと、どっちがウミだっけ? あれ?」
「こっちがウミだよー」
「こっちがナミだよー」
同時にそう言って、同じポーズでふたりは手を挙げた。
「だから全然わからないって。よし、それじゃナミだけ手を挙げて」
困ったようにジャックが言うと、
「はーい」
「はーい」
意地悪そうににやにや笑いながら、今度も、ふたりともが手を挙げる。
「お前ら、本当は俺をからかって遊んでるだろ」
「でも、ノーマはちゃんとわかるよ?」
片方だけが答える‥‥‥今喋ったのがどっちなのか、やっぱり、ジャックにはわからない。
「そうなのか?」
「そうだよー」
「そうだよー」
「うーん。それ、ノーマはどうやって見分けてるんだ?」
「えとねー。しっぽが茶色いのがウミでー」
「しっぽが白いのがナミー」
ふたり揃ってしっぽの先を振ってみせる。確かにそこだけ色が違ったが‥‥‥だからといって、茶色いのがどっちだったか、すぐには憶えられそうにもなかった。
「‥‥‥でも、それで見分けてるんだったら」
何か思いついたような顔をして、ジャックはごそごそと部屋の中を漁り始める。
「あ、ノーマだ。ノーマー」
「ノーマー」
「あら、ふたごちゃん。今日も元気ねー」
まだ午前中だというのに珍しく診療所の廊下をふらふらしていたノーマに、屋根裏から降りてきた双子が早速纏わりついた。
「ねえノーマ、ジャックにねー、どっちがウミでどっちがナミか、わかんなくしてもらったのー」
「もらったのー」
「あら。どうやって?」
「ほらー」
「ほらー」
ふたり揃ってしっぽの先を振ってみせる。
‥‥‥色が違う筈のしっぽの先だけを、ふたりともが紙袋で隠している。
「なるほど。これは困ったわね」
そういう割にまるで困った風でもなく、ノーマは不敵に笑う。
「んー、どっちがウミでどっちがナミかわからないから、ナミにだけお注射してもらうように、先生にお願いしてみようかな?」
意地悪そうにひとこと告げて、
「ええええええええええええっ!」
「はい。あなたがナミで」
悲鳴をあげた片方の頭を撫でる。
「あなたがウミ、ね?」
続いて、もう片方も。
「すごい‥‥‥わかっちゃったよ、ナミ」
「本当だね‥‥‥わかっちゃったよ、ウミ」
「ジャックも可愛いものね」
もとより、ノーマにかかればこのくらいは造作もないのであって。
「ノーマ、すぐにわかっちゃったよー? ジャックのウソつきー」
「え?」
「ジャックのウソつきー」
「いやウソつきって‥‥‥じゃ、それじゃどうやって見分けてるんだ一体?」
深刻そうに首を捻って、ジャックは考え込んでしまうのだった。
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