スウィングなんとかという女子高生のバンドの話題をコミュニティ誌で読んだとき、彼自身は変わったことをする連中がいるなと思っただけだった。だが、高校生ジャズバンドというものは世間的には希少価値があるらしく、イベントだの開店セールだのあるたびに声がかかっているそうで、そのたびに彼女らはレールバスに乗って出かけ、また帰ってくるのだった。
彼女らはちゃんと運賃を払って乗っている以上、れっきとしたお客様である。そして、しゃべり声が大きいのも、まあ学生であれば仕方ないと思う。彼が我慢ならないのは、彼女らがいつも乗車するなり楽器をケースから出して吹き鳴らし、あまつさえ合奏を始めることである。
──去年の冬だったか、一番最初に彼女らが演奏を始めた時、彼はわざわざ運転台から出て注意した。だが、
「なして止められんのー、わだすらただ騒いどるんやね! ジャズやっとるとよ!」
「んだ、ジャズだ。げーじゅつだ」
と、彼の想像を超える理屈で反抗された上、こともあろうに他の乗客から
「ただでジャスさ聞けんだからいんでねえが、目くじらたてることねぇず」
と言われ、彼はすっかりくさってしまったのだ。
[ << | INDEX | | >> ]
|