繰り返されるやり取りが始まるのを見て、香織は湯気に曇った眼鏡を外し、ポケットティッシュで拭いた。少し前まではこんな口ゲンカが始まるたびに仲裁しなければと焦り、おろおろしていたものだが、最近香織にもようやくそれが二人のコミュニケーションなのだと解ってきた。
……要するに仲がいいのだ、この二人は。
他の面々が邪魔に入らないのは――単に呆れているか、面倒なだけだからかもしれないが。そんなことが分かっただけでも、香織は嬉しい。
そう。実は今、一番この状況を嬉しく思っているのは自分かもしれない。クリアになった視界の中、香織はそう思う。放課後に揃って練習し、その後に一緒にラーメンを食べに行く。そんな日常は絶対に自分には来ないと思っていたから。
ほんの少し唇に浮かんでいた笑みに気付いて、香織は慌ててラーメンを啜った。こんな状況で一人でにやにやしていたりしたら、それこそ格好の餌食にされてしまう。
「―――、――!」
「――――っ、――!」
まだ終わらない拓雄と友子の言い合い。そろそろ隣のテーブルに座るおじさんがイライラしてきたあたりで、唐突に友子が香織の方に振り返る。
「でもいいよなー関口は」
「え、……なに、が?」
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