「‥‥‥という展開についても考えたのだけれど、伝統的にサンタクロースは 男性だったそうね。女性の私がこんなことをして、こちらの宗教家の方が気を 悪くしたりはしないかしら。少し心配だわ」 「え? いや、このあたりの人はそんな細かいこと全然気にしないと思うし、 普通の爺さんが出てくるよりもフィーナみたいな綺麗な子が出てきた方が絶対 嬉しいに決まってるんだから、そんなの全然問題にならないけど‥‥‥気を悪 くしたりはしないかしらって、そんな服着ちゃってから心配するのは順番が違 うんじゃないか?」 「それはほら、その、本当は達哉に見て欲しかったから、ということもあって」 「う‥‥‥やっぱりフィーナ、サンタ禁止」 「え? どうして?」 「うん。フィーナの言う通り、伝統的にサンタクロースは爺さん。だからフィー ナがそんな格好で出て行ったらもう宗教家が全員気を悪くするのは火を見るよ り明らか。というより既に国際問題。紛糾必至。だから今夜は外出禁止」 「そう、それは残念だわ。‥‥‥まさかとは思うけれど達哉、ただ単に妬いて いるだけ、とかいうことでは」 「何を仰います姫様。滅相もありません」 「そう。それなら、サンタは無理でもトナカイになって」 「ってソリ引っ張るの? フィーナが?」 「私がソリになることに比べたら、多少は現実味があると思うのだけれど」 「ありません。全然まったくちっともありません」 「ところでその場合、ソリには誰が乗るのかしら」 「いや、まさかもうトナカイになる気満々だったりとかしないでしょうねフィー ナさん?」 「伝統を鑑みれば、ここはやはり左門さんが適任かしら?」 「おーいちょっと待てー」 「それから、つい見落としがちだけれど、様式を重んじるという意味において は、誰がソリになるか、ということにも検討の必要が」 「いや、だからソリ持って来ればいいだろ。本物。それにトナカイだって、別 にトナカイは架空の動物じゃないぞ? どうしてソリだのトナカイだのまで人 間がやる必要があるんだ」 「‥‥‥え? ま、まさかとは思うのだけれど、トナカイは空想上の動物、と いう認識は正しいのよね?」 「月育ちは流石というか何というか‥‥‥いるよ。トナカイは本当にいる。実 在する動物」 「それは素晴らしいわ! では是非ともそのトナカイをお借りしましょう、達 哉! そうすればソリでも空が飛べるのでしょう? 素敵‥‥‥」 「だから待て! トナカイは動物としては実在するけど空は飛べないし鼻も赤 くない! そういうのは実在のトナカイをモチーフにしたフィクション!」 「ぇー?」 「ぇーって。うああ頼むから恨めしそうにこっち見ないてくれ、仕方ないだろ それが事実なんだから。そんなの俺のせいじゃない」 「ぐすっ‥‥‥達哉の‥‥‥達哉の馬鹿ぁ‥‥‥」 「うわそんないきなり泣き出されても」 「達哉が、達哉がいじめる‥‥‥よよよ‥‥‥」 「よよよじゃなくて‥‥‥ああもう、大丈夫! いいからサンタで! だから 機嫌直して、ね」 「だって、私がサンタでは国際問題が紛糾必至な満漢全席で、宗教家の皆さん が気を悪くされてしまうのでは」 「ごめんなさいそれは嘘です! サンタの格好したフィーナがあんまりかわい いから独り占めしたかっただけです!」 「‥‥‥はい、よくできました」 「って、あ、それ目薬‥‥‥っ! 全部わかってやってやがったなフィーナあ ああ!」 「ごめんなさい達哉。本当は私も、一度でいいから、『独り占めしたい』って 達哉にはっきり言って欲しかった。それだけなの」 「何だよ‥‥‥何だよ」 「ふふっ。では、今度こそ行ってくるわ。いい子で待っていてね、達哉」 「‥‥‥まあ、いいや。行ってらっしゃい、フィーナ」